MOSFETのデータシートに書かれている"最大電流値"はあてにしてはいけない!?

2022/01/16

熱計算 部品

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MOSFETを選ぶとき、販売サイト等に書かれている定格電流値をあてにしてませんか?

例えば、「60V,25AのMOSFET」があったとき、そのMOSFETに25Aまでは流すことができる。と思いがちですが、実際は違います。

今回は、「MOSFETのデータシートに書かれている"最大電流値"はあてにしてはいけない!?」をテーマにやっていきます。

MOSFETのドレイン電流の絶対最大定格値は、何を示しているのか?

MOSFETのデータシートを見ると、ドレイン電流の絶対最大定格「ID_max」が記載されています。販売サイト等に書かれている定格値もこの値のことが多いです。

先ほども述べましたが、MOSFETに、ドレイン電流の絶対最大定格値を、実際のところ流すことができません。壊れます。

では、この値は一体何を示しているのでしょうか?

結論から言うと、ドレイン電流の絶対最大定格は「ON抵抗」と「パッケージの熱抵抗」を表しています。

ON抵抗と熱抵抗が低いと、電流をたくさん流しやすいので、ドレイン電流の絶対最大定格は大きくなります。そのため、ドレイン電流の絶対最大定格は、その素子が「電流を流す能力」の大小は示します。しかし、値は(単位がアンペアだからといって)実際の使用を考えた時には、あてになりません。

MOSFETのドレイン電流の絶対最大定格値とは、どういうものか?

さて、そもそもMOSFETのドレイン電流の絶対最大定格値とは、どういうものなのでしょうか?

ざっくりというと、理想的な放熱器によって、ケース温度を常に25℃にキープしたとしても、これ以上はムリ!という限界値のことです。

どのようにして求まるのか、をみていきます。

MOSFETのドレイン電流の絶対最大定格値の概念図

理想的な放熱器を取り付けた場合、Tc=25℃にキープされるため、TchからTcまでを考えればよいので

MOSFETのドレイン電流の絶対最大定格値の熱回路

となります。

(関連記事:カンタンな熱計算のやり方(1)ヒートシンクなしで、どこまで使用できるか?
(関連記事:カンタンな熱計算のやり方(2)ヒートシンクをつけた時

MOSFETの発熱は、連続で電流を流した時の限界値を考えているので、ON抵抗によるジュール損のみを考えて

ON抵抗による損失

となります。

注意点として、ON抵抗は、計算するチャネル温度での値を使用します。Tch=150℃の時を計算するなら、ON抵抗もTch=150℃の時の値を使用します。

先ほどの熱回路の式と合わせて、

MOSFETのドレイン電流の絶対最大定格値の導出

となります。Tch(max)はたいてい150℃、Tcは25℃と規定されることが多いので、分子はほぼ固定値になります。よって、ドレイン電流の絶対最大定格値は、分母のパッケージ熱抵抗(チャネル-ケース間)とON抵抗によって値が決まります。

(具体例)TK40A06N1で考えてみる

東芝製「TK40A06N1」で具体的に検証してみます。

「TK40A06N1」は"60V,60A"の素子です。まず、データシートを確認していきます。

TK40A06N1絶対最大定格

絶対最大定格の表を見ると、60Aとなっているのは「シリコン制限」です。シリコン制限とは、パッケージすら全て取り去って、中に入っているシリコンチップ単体だけとした時の限界値のことです。製品としての限界値は、Tc=25℃で規定されている"40A"です。

TK4A06N1の熱抵抗

データシートより、チャネル-ケース間熱抵抗は、4.16[℃/W]です。

ON抵抗-温度特性図

上図より、150℃でのON抵抗を13.8mΩとします。

Tch_max=150℃、Tc=25℃、Rth=4.16℃/W、Ron=13.8mΩであるので、

ドレイン電流の絶対最大定格値の計算

となります。データシートの値"40A"と微妙に異なるのは、ON抵抗による発熱以外のところ(パッケージとか?)に、何かボトルネックとなるものがあるためと思われます。

実際のところ、MOSFETにどれくらい電流を流せるのか?

ところで、データシートのドレイン電流の絶対最大定格値まで電流を流せないのは分かったけど、実際のところはどれくらいまで流せるのか?という疑問がでてきます。

MOSFETに流すことができる電流値は、放熱条件次第で変わります。先ほど例として挙げた「TK40A06N1」で考えてみます。

ヒートシンクなしのとき

先ほど挙げたデータシートの熱抵抗の表より、チャネル-外気間熱抵抗は62.5℃/Wです。

また、Tchは最大値150℃の80%まで使用するとしてTch=120℃、外気温Ta=50℃、120℃でのON抵抗は12.2mΩ(データシートの図より)とすると

ヒートシンクなしの熱回路
ヒートシンクなしの時の最大電流値

となります。よって、ヒートシンクなしの状態での、実用最大ドレイン電流は9.58Aということが分かりました。

ヒートシンクありのとき

データシートの熱抵抗の表より、チャネル-ケース間熱抵抗は4.16℃/Wです。また、ヒートシンクと放熱シートの熱抵抗をそれぞれと20℃/W、1.65℃/Wとします。(この時と同じ値にした)

Tchはヒートシンクなしの時と同じく120℃、Ta=50℃、120℃でのON抵抗は12.2mΩとすると、

ヒートシンクありの時の熱回路
ヒートシンクありの時の最大電流値

となります。よって、この条件での、実用最大ドレイン電流は14.9Aということが分かりました。

もっと電流を流したい場合には、もっと大きなヒートシンクが必要になります。

まとめ

  • MOSFETの絶対最大定格のドレイン電流は、理想状態での値であり、この値は流せない
  • MOSFETの絶対最大定格のドレイン電流は、ほぼパッケージ熱抵抗とON抵抗によって決まる
  • 絶対最大定格のドレイン電流が大きいものは、電流を流す能力が高いことは確か。値は比較に使用するためのもの
  • MOSFETに実際に流せる電流値は、放熱次第。熱計算で求めることができる
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